
2026年3月17日(火)に開催された、第38回ハイメスコンクール<ピアノ部門>では、厳正なる審査の結果、2名の入賞者が選ばれました。各入賞者の紹介、また入賞されたお気持ちなど、広報委員会がインタビューさせていただきましたので、ぜひご覧ください。また、審査委員長の植田克己先生による全体講評も掲載しております。
最優秀賞 島津 拓実さん(26歳・東京藝術大学大学院音楽研究科修士課程修了)

受賞された率直な感想
このたびの受賞について、感無量の思いでいっぱいです。
2024年度(2025年3月)に大学院を修了し、この1年間はレッスンに通わず自分自身と向き合いながら研究を重ねてきました。
独り立ちして臨んだ昨年の夏のコンクールでは、これまで経験したことのないようなミスが起きたり、自分の力を十分に発揮できなかったりと、苦しい時期が続きました。振り返ってみると、これまでレッスンにて先生の前で毎週演奏していたことは、小さな本番や勉強会を積み重ねているような貴重な経験だったのだと改めて感じています。
そのような中でも葛藤しながら研究を続けてきたことが、今回こうして一つの形として実を結んだのだと思うと自分が進んできた方向性は間違っていなかったのだと実感することができ、大きな自信につながりました。本当に嬉しく思っています。
また、本コンクールは北海道にゆかりのある方々が多く受けられる歴史あるコンクールであると認識しております。北海道は私の出身地ではありませんが祖父の家系が北海道であったり、大学時代より伴奏など演奏会の仕事で度々訪れる機会があり、不思議とたくさんご縁のある土地でした。そんな縁のある北海道でこのような素晴らしい賞を賜りまして大変光栄です。これからも賞に恥じぬよう誠心誠意取り組んでいきたいです。
選曲の理由
セルゲイ・ラフマニノフ 10の前奏曲 作品23より作品23-2, 23-4, 23-8, 23-9, 23-10
本来この『前奏曲 作品23』は全10曲で構成されており、すべて演奏すると約40分に及ぶ大作ですが、今回はその中から半分を抜粋して演奏いたしました。
ラフマニノフはもともと大好きな作曲家で、これまでも多くの作品に取り組んできましたが、今回はソナタのような大規模な1曲を選ぶのではなく、あえて複数の小品を組み合わせる形を選びました。
その理由の一つは、5曲それぞれが異なる性格を持っている点に魅力を感じたからです。曲ごとに音色の出し方やキャラクターをしっかりと作り分けることで、自分自身の表現の幅を試すことができるのではないかと考えました。
また、コンクールという評価の場でありながらもそれぞれ異なる個性を持つ楽曲を通して、聴いてくださる方にも一つの演奏会のように楽しんでいただける流れを意識しました。
そのような思いから、今回の選曲に至りました。
また、あえて第5番などの有名な番号を選ばなかったことにも理由があります。広く知られている作品はすでに多くの方が耳にされていることも多いため、比較的演奏機会の少ない楽曲に光を当てたいと考えました。
中でも第8番や第9番は非常に難易度が高く、コンクールの場では敬遠されがちな作品でもあります。しかし、そうした楽曲の中に持っている魅力や音楽的な豊かさを、しっかりとお伝えしたいという思いがありました。
今回のプログラムは、第2番の力強く躍動的な性格に始まり、第4番の静かな叙情性、第8番の爽やかな疾走感、第9番の蠢くような重音の響き、そして静かな終幕である第10番へと続く流れで構成しています。それぞれ異なる個性を持ちながら、一つの物語のような流れを感じていただけるよう意識しました。
特に第10番は単体で聴くというよりも、それまでの楽曲の流れの中でこそ真価を発揮する作品だと感じています。第8番・第9番と続く緊張感の高い音楽の後に訪れる、静けさと穏やかな響きは、まるで物語の終幕のような役割を担っています。そうした全体の構成の中でこそ、この曲の魅力がより深く伝わると考えました。
留学に向けて
実はこれまで一度も海外に出たことがないのですが、これまで取り組んできたラフマニノフの作品をきっかけに、本場のロシアで学びたいという思いが強くなってきました。
現地で受け継がれてきた演奏様式や知識、ノウハウを持つ先生方から直接学ぶことで、自分の音楽にさらに磨きをかけていきたいと考えています。
近年ロシアでは、込み入った世界情勢の影響もありすぐに実現できるかは分かりませんが、2年以内を目安に渡航し、より一層研鑽を積んでいきたいと考えています。

最優秀賞の島津さんには、副賞として、(株)宝石の玉屋様(泉 研社長)より「純金ウィーン金貨 ハーモニー」が贈られました。
優秀賞 岩本 七音さん(21歳・小樽商科大学商学部3年)

受賞された率直な感想
私は音楽大学ではなく一般の大学に通っており、あと1年で学部を卒業予定です。
今回、ハイメスのコンクールに応募させていただいたのは、進学を前に海外の音楽や音楽文化についてより深く学びたいという思いがあったからです。音楽大学に在籍していない自分にとっては、その一歩を踏み出すことにハードルも感じていましたが、そのような中で今回受賞という結果をいただけたことは、自分の可能性が大きく広がったように感じられ、今後の道への大きな励みとなりました。大変ありがたく、そして光栄に思っています。
選曲の理由
ラフマニノフ: ピアノソナタ第2番 変ロ短調 Op.36(1931年 改訂版) 第2楽章、第3楽章
この作品は大学1年生の頃から取り組んできたもので、これまでにもホールで演奏する機会をいただいてきました。繰り返し演奏する中で課題も明確になり、特に音数の多いこの曲において、どのように響きを構築し、音楽として聴き手に伝えるかという点に強い課題意識を持ってきました。
今回のコンクールでは、そうした課題を乗り越える一つの挑戦として、この楽曲を選びました。
また、これまでに札幌交響楽団との共演でラフマニノフのピアノ協奏曲第2番を、さらに小樽管弦楽団との共演でチャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番を演奏させていただくなど、オーケストラとの経験を積んできました。
その中で、ピアノという楽器一つでありながら、多彩な音色や響きを生み出せる可能性について多くを学びました。本作品においても、豊かなメロディーや和声の魅力を、オーケストラ的な響きをイメージしながら表現したいという思いがあり、今回の演奏につながっています。
留学に向けて
これまで北海道を離れる機会があまりなかったのですが、将来の目標として「北海道から世界へ、そして世界から北海道へ」という思いを持っています。北海道ならではの音楽文化を世界に発信し、同時に世界で学んだことを北海道に還元していきたいと考えています。
そのためにも、今後は演奏活動を続けながら、海外の音楽文化に触れ、日本とは異なる視点から音楽を見つめ直すことで、自分自身の表現の幅をさらに広げていきたいと思っています。
現在、大学では主に商学を学んでいますが、海外の音楽マーケティングについての研究もしてみたいという夢も持っています。
留学先としては、音楽の都として知られるウィーンのあるオーストリアを志望しています。本来であれば様々な国で学びたいという思いもありますが、まずはクラシック音楽の中心地であるこの地で、専門的な学びを深めたいと考えています。
現地の空気や文化に触れながら、クラシック音楽がどのように生まれ、育まれてきたのか、その背景にある人々の感性や価値観も含めて理解を深めていきたいと考えています。そうした経験を通して、自身の音楽をより一層磨いていきたいと思います。

審査委員長 植田克己先生による全体講評
今日6人の演奏を、私はそれぞれ十分に楽しむことができました。
大変素晴らしい演奏に、審査しなければいけないということを忘れさせるような瞬間すらいくつもありました。
皆さんの普段の修練の模様が聴けて、とても嬉しく思いました。
これは私だけの感想ばかりでなく、他の先生方からもご意見も一緒にしてですが、この演奏をさらに高めていくためには何が必要なのだろうかというお話をさせていただきます。
それは、ピアノという楽器を弾く、鳴らすということをさらに超えてほしいということです。
例えばオーケストラの様々な楽器による際立った音色であるとか、歌であるとか、あるいは合唱であるとか、響きの多様性、可能性への要求をもっと高めていただきたいと感じた次第です。
どうしても私たちは、強弱ということを念頭に置いて音を求め勝ちですが、例えば重い軽いということもあるかもしれませんし、粘る音もあるかもしれないし、性格や音の質など他にも色々な要素が加わってきます。
記号のフォルテやピアノということに目が行きがちで、伴奏であるとか、メロディーであるとか、その対比で処理を考えるその出発点から、ご自身の中からの自然な発想を大事にして、さらに研鑽を積んでいただければと思いました。
もう一つ、本番会場の響きの受け取りからご自身が培った音楽をその場で高めて行くということも、表現者として大事なことかと思われます。これは場数など経験値が必要なことでもありますが、これからの課題として気に留めていただければと思います。
繰り返しになりますが、本当に6人の演奏は、私は見事だったと思いました。
どうもありがとうございます。





